糖質ダイエット法(炭水化物ダイエット)
最近、糖質ダイエット(炭水化物ダイエット)というダイエット法が流行っています。アメリカのリチャード・バースタイン博士により唱え始められ本も出版されていますが、本来はバーンスタイン博士自身が自分の1型糖尿尿病治療のために編み出した方法です。いわゆる減量法、ダイエット方法としても優れているため最近全世界でもてはやされているわけです。日本語で書かれたわかりやすい本としては北里研究所の山田 悟 教授の糖質制限食のススメ その医学的根拠と指針などをご参照されるのが良いと思います。
糖質というと「甘いもの」を連想しがちですが糖類にでんぷん質が加わりますので、主食全般+甘いもの+芋類(米=ご飯類、小麦=麺類やパン、甘いもの=ケーキやお菓子+果物、芋類=サツマイモやジャガイモ)と言った方が良いでしょう(図1)。まあこれらの糖質を様々な程度に制限して行くのが「糖質ダイエット」です。
忘れないうちに注意しておきますが以下の糖質ダイエットは本来は糖尿病でSU剤(グリメピリド=アマリール、グリベンクラミドなど)やグリニド系剤の内服、またはインスリン注射を行なっている患者さんでは低血糖を引き起こす可能性がありますのでご注意ください。必要なら主治医とご相談の上で開始してください。
図1.糖質と炭水化物の違い:欧米には「糖質」という呼び方がなくもっぱらCarbohydrate(炭水化物)と呼んでいるようですが、厳密に言うと炭水化物は野菜などに多く含まれる線維質セルロースも含みます。
人間に必要な三大栄養素は糖質、脂質、タンパク質です。そのうちの糖質=主食を抜く、と言うとどうしても偏った食事法と誤解されやすいのですが、人類約二十万年の歴史の中で穀物(米や小麦など)を主食とするようになったのはたかだかこの一万年ぐらいな訳です。類人猿から進化してきた人類の体はそもそも狩猟生活によりマッチしており、糖質はかえって毒である、いや無ければ無くてもよい。というのが大雑把な理解です(図2)。生物学的には人間が食物から必ず摂取しなければならない「必須アミノ酸」と「必須脂肪酸」は存在しますが、「必須炭水化物」というのは存在しません。
図2.野生のサルはご飯もケーキも食べない:糖質ダイエットは上述のバースタイン博士がまだ会社員だった若い頃に、自らの1型糖尿病を治療するための食事療法として色々試行錯誤する中で編み出してきたダイエット法です。
太るメカニズム(余分な脂肪蓄積の原因は過剰な糖質摂取にある)
太る原因は?と聞かれると誰しも「脂肪」と思いがちですが正解はズバリ「糖質」なのです。これまでの常識的な栄養学ではどうしてもトータルカロリーを問題にします。糖尿病の男性なら1600kcal、女性なら1400kcalに制限する、と言った具合です。そしてその1600kcal=20単位(栄養学的に1単位=80kcalと決められています)のうちの50-60%が糖質ということになります。一方、糖質ダイエット法では糖質以外の脂質、タンパク質、純粋アルコールはいくら食べても飲んでも良い、と言うところがミソです(表1)。ご飯は何グラム、なんて測定する必要はありません。(糖質ダイエットにカロリー制限はありません)
表1.糖質ダイエット早見表
糖質を摂取すると→血糖値(ブドウ糖濃度)上昇→追加インスリン分泌が起こります(図3)。インスリンはブドウ糖を筋肉や脂肪細胞に取り込ませエネルギー源として利用させますが、余分なブドウ糖は中性脂肪へと変化させて体脂肪として貯蓄させます。3食ともせっせと糖質=例えばお米を摂取するとその度に血糖値の上昇とインスリンの追加分泌が起こり、チョット運動を怠れば脂肪が着々と蓄積される訳です。(図4に100kcalに相当する食事量、図5に100kcalを消費するのに必要な運動量を示しましたが、比較するとちょっと食べれば相当運動してもまだ余剰エネルギーが発生しそうな事が分かるでしょう)
一方、糖質さえ控えていれば、野菜(=食物繊維やビタミンやミネラル)、焼き肉(=タンパク質)、純アルコール(=焼酎などの蒸留酒)、マヨネーズやクリーム(=脂肪)などはいくらガッツリ食べてもインスリン分泌が少なく、結果的に脂肪蓄積が起こりません(図3)。またお酒でも糖分の残留がある「醸造酒」=ビールや日本酒に比べて、糖分の残留のない「蒸留酒」=焼酎は飲酒後の血糖値の上昇がほとんどありません(図3’)。
図3.ステーキで血糖値は上がらない:白米(=糖質)摂取時とステーキ(=タンパク質+脂肪)摂取時の血糖値の変化
図3’.焼酎で血糖値は上がらない
図4.食事で100kcal減らすための量
図5.運動で100kcal消費するために必要な運動時間
さまざまな程度の糖質ダイエットを実践してみましょう
一口に糖質ダイエットと言っても様々な程度のダイエットが実践できます。主食系と炭水化物の含有量の多いジャガイモやサツマイモなどの芋類、甘い果物やジュース、醸造酒などを朝昼夕ともに一切食べない完全糖質ダイエット(アトキンス法:炭水化物<40g/day=15g/食)がもっとも強力ですが、リバウンドせず長続きさせるには炭水化物<130g/day=40g/食のバーンスタイン法が良いかもしれません(下記の図6に示した栄養学でいう表1と表2の「1単位は毎食ごとに食べても良い」ということです)。バーンスタイン法なら3食均等に摂取するのが基本ですが、夜だけか昼と夜だけ糖質をカットするという変則的な部分ダイエットでもそれなりに効果があります。
図6.色々な食品の「1単位=80kcal」:バーンスタインの糖質制限食では炭水化物<130g/day=40g/食すなわち表1と表2の1単位は毎食ごとに食べても良い。
糖質制限食の5つのメリット
最後に前出のバーンスタイン先生が掲げる糖質ダイエットの5つのメリットをご紹介しておきましょう(図7)。
1.糖質制限食は栄養療法の主たる目標である血糖コントロールを改善し、インスリンの変動を抑制する。
2.糖質制限食は低脂質・カロリー制限食に比べ、少なくとも同等にには減量効果がある。
3.炭水化物を脂質に置換することは、一般的に動脈硬化症に対して保護的であり、糖質制限食によりLDL-Chol, HDL-Chol, 中性脂肪、HbA1cのプロフィールが改善する。
4.糖質制限食はメタボリックシンドロームの構成要素(肥満、高血圧症、脂質異常症、糖尿病など)を改善する。
5.糖質制限食の効果発現に減量は不可欠ではなく、体重が減少する前から血糖コントロールが改善する。
図7.糖質制限食の5つのメリット
まとめ
数年前に「目がテン」という所ジョージの科学番組でやっていたのですが、2週間合宿して男女6名が実験前と同カロリー同運動量で完全糖質ダイエットをやり、腹一杯焼き肉やステーキを食べて3−9kg/2週間はやせていました。内臓脂肪が多い男性の方が効果が早く顕著に出るようです。
この糖質ダイエット法をある患者さんにご紹介したところ、初めの1−2ヶ月はうまく行ったのですが、患者さん曰く「糖質ダイエットは一応出来るけど飽きるよ!」だそうです。確かに糖質ダイエットをやってみると食べる品数が極端に限られる気がします。ご飯も麺類もパンもだめ。外に出て食べられるのはステーキ単品かケンタッキーかチキンの唐揚げぐらいです。食後のおせんべいも禁止。まあ、だからダイエットになるのでしょう。でも野菜類は山ほど食べるし、何よりググッとお腹がすいて何を食べてもおいしく感じる気がします。代替え品としてお勧めは、コンビニのサラダチキン、Amazonで取り寄せ可能なコンニャクラーメンやコンニャクカレーうどん、食後にはビスタチオなどでしょうか。
糖質ダイエットで我慢が出来なくなったらたまにはご褒美のケーキやチコレートを食べても良いのではないでしょうか?
そして最後に糖質ダイエット開始後3-6ヶ月で体重が底打ちしたら、あるいは糖質ダイエットと並行して、やって欲しいのが一日5,000-8,000歩(あるいは60分程度)のウォーキングか15分間のジョギング(図5と図8)と筋トレ(図8)です。
皆様のご健闘をお祈り致します。
図8.有酸素運動と筋肉トレーニング