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予防接種後って風呂に入ってはいけないの?

 日本全国津々浦々、「インフルエンザなどの予防注射の後は風呂に入ってはいけません」という「迷信」がはびこっている様な気がします。かく言う私は熊本県の北部出身ですが、母親から「注射したら風呂に入ったらいかんばい!」ってきつく言われていました。しかし実際はコロッと忘れて入浴してしまったことも少なからずあり、それでも何も起きませんでした。医者になってからは、私自身もはじめのうちはひょっとしたら「風呂には入らない方が良い」なんて言ってたかもしれません。チョッと自信がない。
 医師として福岡、山口(下関)、愛媛(松山)、鹿児島(川内)、そして埼玉(岩槻)と各地で活動したのですが、やはり各地のお年寄りは「入浴禁止」を固く信じて疑わないようです。当院にてインフルエンザワクチンの接種を受けた中国人の子供=中学生も風呂に入ってよいか?と聞いてきましたので、中国辺りでも入浴禁止になっているのかも知れません。
 一方、先日出張接種をしたある企業には日系ブラジル人やペルー人がたくさん働いていて、インフルエンザのワクチン接種をしたのですが、連中に聞いても「注射後は入浴禁止」なんて常識は全く存在しないようでした。ネットで調べるとアメリカでは入浴しても良い、と云う記事を見つけました。「注射後は入浴禁止」というアイデアは東洋医学的な「冷え」などの考えから来ているのでしょうか?。また他のネットのサイトでは「昔の日本では比較的不潔な共同の風呂に入っていたため接種部位から雑菌が入ることを懸念していたため」と説明されていました。
 もちろんEBMEvidence Based Medicine:証拠に基づいた医学)的には入浴すると免疫が付かない、抗体価の上昇が有為に少ない、なんてことは全くないと思います。私は以前は免疫学者としてマウスを用いて移植の拒絶反応を押さえる研究(=免疫寛容)を盛んにやっていたのですが、相当な量の抗癌剤を投与されたマウスでも一般的な拒絶反応や感染抵抗性はキッチリと維持されています。また外科医としての経験から言えば、針刺しの穴なんて人間の高性能の皮膚組織にかかれば一瞬で閉鎖します。さらに最近では外科手術の抜糸前の縫合創があっても手術当日からシャワー程度は許可するのが常識になって来ています。
 私自身は開業後インフルエンザワクチンをはじめ色々な予防接種をするたびに「風呂などは入っても構いませんよ」と繰り返し申し上げていますが、「○○病院では注射当日は入浴禁止されました」なんてごく最近でも患者さんから言われたことがあります。まだまだ医者の間ですら根強い「入浴禁止論」がくすぶっているようです。
 最後にインフルエンザワクチン予防接種の受け方にも書いているのですが、国立感染症研究所の岡部信彦先生のお墨付きの図表をアップロードしておきましょう。

2016.4.14.版 文責:眞弓循環器科クリニック院長 眞弓久則

予防接種後の入浴-squashed

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