ストレス対応能低下症(自律神経失調症)
近年の自殺者の統計では毎年3万人以上の自殺成就者が報告されており、事前の診断の有無を問わずその大部分がうつ病絡みであると思われます。うつ病の合併症あるいは前段階として重要なのがパニック障害、全般性不安障害、社会不安障害、強迫性障害、個別的恐怖症などの不安障害や心気症、摂食障害、心的外傷後ストレス障害、身体表現性障害などの疾患群です。これら心の病を発症し易い人たちは一般に几帳面で完全主義、こだわりが強くて概ね対人関係で緊張し易い傾向があります。
周りからみて明らかに落ち込んで精神科や心療内科を受診する頃には診断は容易ですが、不眠や食欲不振を始めとする各種個別の身体症状を訴えて臨床各科を個別に受診する初期の間はなかなか診断がつかず各科で「何々は特に異常ありません」と門前払いを繰り返されることも珍しくありません(下図1)。(逆に、抑うつ気分もハッキリしないこの時期に精神科や心療内科を紹介しても「うつ病ではありませんよ」とやはり突き返されるのですが‥‥)
筆者の標榜する循環器科にはしばしば動悸、息苦しさ、胸部締め付け感、胸痛、肩や背部痛などを訴えて来られることが多いのですが、心電図、負荷心電図、ホルター心電図、胸写、心エコーなどの諸検査で異常の見つからない患者さんによくよく聞きただしてみると、喉の違和感やめまい、立ち眩み、耳鳴り、難聴を訴えて耳鼻咽喉科、めまいや頭痛、手足のシビレ感、不眠を訴えて脳神経外科や神経内科、腰痛や手足のシビレや痛みを訴えて整形外科、羞明感や眼精疲労を訴えて眼科、食欲不振や飲み込み難さ、嘔気、便秘や下痢を訴えて消化器内科、ホットフラッシュや逆上せ感、便秘、生理不順、冷え症などを訴えて婦人科など様々な診療科の受診歴があることが多いのです。
これらの症状をひっくるめて心療内科的には「自律神経失調症」と呼ばれる事がありますが、上記の様々な症状は「交感神経系の過緊張+副交感神経抑制」の状態と考えられます。車の運転に例えて言うと四六時中アクセル(=交感神経)を踏みっぱなしでブレーキ(=副交感神経)が効かない状態、と言えるでしょう。こんな車はいつどこに衝突炎上してもおかしくない訳です。
このような患者さんには多彩な身体症状はみられてもうつ病の診断に不可欠な「抑うつ気分」または「興味の喪失」が全くみられない事も多いのですが、軽いうつ的症状と不安身体症状をひっくるめて「ストレス対応能低下症」=「脳内セロトニン欠乏症」=とにかく抗鬱剤SSRI(選択的セロトニン 再取り込み阻害薬)が有効な「SSRI証」と理解して比較的早期に抗鬱剤のSSRI(またはSNRI)での治療を開始して良い成績を上げています。特に私自身が注意している事は習癖性の強いベンゾジアゼピン系の薬(デパス、セルシン、コンスタン=ソラナックス、レキソタン、リボトリールなど:これらは単に症状をマスクして症状を複雑化させ治療をなお一層困難にします)を使用しない事、併用してもはじめの1-2週間か頓服に止める事でしょうか。
2016.4.19.更新 眞弓久則
▲ストレス対応能低下症=脳内セロトニン欠乏症=SSRI証
▲ソマトサイキックドミノ
▲心配過多はうつ病に至る
▲PHQ-9による質問表:「全くない」=0点、「数日」=1点、「半分以上」=2点、「ほとんど毎日」=3点、としてスコア化すると1-9点→ストレス対応能低下症の疑いあり、10点以上→うつ病の疑いあり、となります。さらに詳細な問診が必要です。