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生活習慣病の薬は中止できますか?
 高血圧症、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症などの薬は一度のみ始めたら一生のみ続けなければならないのか?これらの病気はよっぽど重症化しないと、症状が出現しません。このため、「何で薬なんか飲まないといけないの?副作用は大丈夫?」という患者さんの気持ちはわからない訳ではありません。「生活習慣病」に対しての各種の薬は一度のみ始めると一生のみ続けないといけないのか、というご質問はしばしばお聞きする所です。大雑把にお答えするなら「YES」とお答えしておいた方が良いでしょう。
 ダイエット(5%の体重減少)、減塩(6g/日以下)、各々の食餌療法、運動療法、禁煙などを厳密に実施できれば降圧剤、血糖降下薬、高脂血症治療薬、尿酸降下薬を減量中止できる可能性もあります。しかしストイックな生活を年単位で持続させることは難しく、薬の量は年齢を重ねるごとに少しずつ増えてゆく場合が多いということはよく理解していただきたいと思います。また、これらの薬の内服は原則的には白髪染めと同じ(染めてる間はカッコいいが止めるとすぐ白髪が生えてくる)です。いずれの薬でも、病気そのものが根本的に直っている訳ではないのです。したがって,薬を止めればまたもとに戻ります。100年か200年後には、しばらく薬を飲んで正常になったらその後一生にわたって再発することはない、と云うような、便利な薬が発明されるかもしれません。でも、現在の所は未だそんな便利な薬はないのです。ただし、開業8年目の2015年までにキッチリと血圧のコントロールを続けた患者さん方の中には降圧剤を夏場毎に少しずつ減量して終了中止に持ち込めた方が数名出てきています。これらの方々では肥大していた心筋が降圧剤の内服継続により退縮して正常化してきたようです。
 それでも安易に自己中止や減量をするとリバウンドや動脈硬化の進行で高血圧、高血糖、高脂血症、痛風などの発作を起こし、心臓・脳血管病(心筋梗塞、脳梗塞、脳出血など)発症の原因ともなります。現在は症状がなくとも5-20年後の心筋梗塞、脳卒中、認知証などの発生を予防することが大切です。肥満、喫煙者の方はなおさら、これらの薬物療法を根気よく続けることが重要です。
 粘って薬を飲み始めなければ一生飲まないで済むのか?答えは「NO」です例えば高血圧症では放置された高い血圧に抵抗して頑張って収縮を続けた心筋が肥大変形して、あとで降圧剤をたくさん飲んでも元に戻らなくなります。治療開始が遅れれば遅れるほどコントロールするのに多種大量の薬が必要となるのです。また、高血圧や糖尿病が原因で腎臓が悪くなる(慢性腎臓病=CKDといいます)と、ますます脳卒中や心筋梗塞などを起こし易くなります。
 最近はEBMEvidence Based Medicine:検証に基づいた医学)の時代です。欧米でも日本でも、薬を飲んだ人と飲まない人、各々数千人の実験群を立てて数年間の比較を行い、飲んだ人たちのグループがより長生きできる、と云うことが既に統計学的に証明されています。糖尿病や高脂血症が原因で悪玉コレステロールが沈着して水垢のように溜った動脈硬化病変(プラークと云います)もキチンと薬を飲み続ければ退縮することが証明されています。
 それでも「私は薬の副作用が心配だから飲みたくない」というあなた、高リスク群の一員として自己責任下にお薬を中止なさってください。ご幸運をお祈りいたします(病気を発症するかしないか=リスクはまさしく確率の問題なのですから、中には薬を飲まなくても長生きする人がいるのも事実です)。
 私の父親は92歳で自炊していますが、母親は81歳で脳梗塞の悪化で死亡しました。現在は私自身も高血圧症、脂質異常症などの薬を飲み続けています。皆さんと一緒に100歳の誕生日をお祝いしましょう。親父には負けないように頑張ろうと思っています。

2016.4.26.
文責:眞弓 久則

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